フォアハンドで思いっきり打ち込んだとき、「ラケットが手の中でわずかに動く」。
打球の瞬間に面が安定しないと、せっかくのフォア強打の威力もコントロール性能も低下してしまいます。
その原因は、グリップの形状が合っていないからかも知れません。
シェークハンドラケットのグリップには、一般的なFL(フレア)やST(ストレート)のほかに、「AN(アナトミック)」という独特な形状のグリップがあります。
中央部分が膨らんだその独特な形状は、手のひらに吸い付くようなフィット感と、強打時の高い安定性が特徴です。
この記事では、アナトミックグリップの特徴やメリット・デメリット、FL・STとの違い、向いている選手まで詳しく解説します。
目次
卓球ラケットの「アナトミックグリップ(AN)」とは
アナトミックグリップは、シェークハンドラケットのグリップ形状の一種です。「AN」と表記され、FL・STと並ぶ選択肢のひとつ。まずはその形状の特徴から見ていきましょう。
中央が膨らんだ独特な形状のANグリップの特徴
「アナトミック(anatomic)」とは「解剖学的な」という意味の言葉です。その名のとおり、アナトミックグリップは人間工学に基づき、握ったときに手のひらのくぼみにフィットするように設計されているのが特徴で、グリップの中央部分が波型に膨らんでいます。
グリップエンドに向かってまっすぐ伸びるST、末広がりに伸びるFLに対し、ANは中央が膨らみ、その前後がややくびれたシルエットは独特です。
この膨らみが手のひらにすっぽりと収まるため、ラケットと手が一体化したような握り心地が生まれます。
FL・STとの違い
FLはグリップエンドに向かって末広がりに広がった形状で、最も使用者が多いタイプです。
STはエンドまで太さがほぼ均一で真っ直ぐな形状をしています。握る位置の自由度が高く、持ち替えや細かな微調整がしやすいタイプ。
これに対しANは中央の膨らみが手のひらにフィットするため、3種類の中で最も握りが安定しやすい形状です。しかし握りが固定するため、握る位置の自由度はやや低くなります。
| グリップ | 形状 | 握り心地 |
| FL | エンドが末広がり | 手に収まりやすく、使用者が最も多い |
| ST | 太さが均一でまっすぐ | 握りの自由度が高く、持ち替えや微調整がしやすい |
| AN | 中央が膨らみ前後がくびれる | 握りが固定されやすく、安定感が高い |
なぜANグリップは使用者が少ないのか
かつては一定数の愛用者がいたANグリップですが、現在、実際に使っている人はFL・STに比べるとかなり少数派です。
その背景には、大きく2つの理由があります。
ひとつは、卓球のプレースタイルの変化です。
現代卓球はバックハンド技術を多用する両ハンドプレーが主流になっています。バックハンドドライブやチキータなど、場面に応じて細かく調整する機会が増えました。
そのため、グリップの自由度が高いFLやSTのほうが対応しやすく、自然とこの2種類が主流になっていきました。
もうひとつは、メーカー側の生産縮小です。
需要の減少に合わせ、各メーカーでANモデルが年々縮小されています。かつてはANを選べたシリーズでも、現在はFL・STのみという例は珍しくありません。
アナトミックグリップのメリット
少数派とはいえ、アナトミックグリップには明確な強みがあるため、根強いファンがいます。ここでは、ANならではの代表的なメリットを3つ紹介します。
強打時にラケットがブレにくい
1つ目のメリットは、強く打ち込んだときにラケットがブレにくいことです。
フォアハンドで思い切りスイングすると、その勢いでラケットが手の中でわずかに動いてしまうことがあります。特にSTでは、強打や連打を繰り返すうちにグリップの位置が少しずつズレ、面が安定しにくくなる場面も少なくありません。
ANは中央の膨らみが手のひらのくぼみにフィットするため、特にスマッシュやフォアドライブを打つ場面で、その安定感を実感しやすいです。
さらに、握りの位置が一定に保たれることで、ラケット面の角度を感覚的に把握しやすくなるのも利点。面の向きが安定すれば、ドライブの回転量や打球方向もコントロールしやすくなります。
軽く握っても安定感がでやすい
2つ目のメリットは、力を入れて強く握らなくても安定感が得られることです。
中央部分の膨らみが手のひらのくぼみにフィットすることで、軽く握っているだけでもラケットが手の中で安定します。
FLやSTでは、ラケットを安定させるために無意識にグリップを強く握りしめてしまう人もいるでしょう。しかしANではグリップ形状そのものが手にフィットするため、必要以上に力を入れなくてもラケットを安定させやすくなっています。
余計な力を入れることなくスイングできるため、身体を使った自然な打球もしやすくなります。
特にフォアドライブでは、「しっかり振っているのに握りは軽い」という感覚になりやすく、スイングの安定感向上にもつながるでしょう。
汗で滑りにくく、フィット感が強い
3つ目のメリットは、汗をかいても滑りにくいことです。
卓球は屋内競技とはいえ、夏場や緊張を強いられる大会など、手の汗でラケットが滑ったり、握り心地が変わったりした経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。
FLやSTのように握る力でラケットを支える比重が大きい形状に比べると、手のひらとの接地面積が大きいANは、汗をかいた状態でもラケットが手の中でズレにくく、安定した握りを維持しやすいのです。
年間を通して変わらない「吸い付くような強いフィット感」を維持できるのは、この形状ならではの強みです。
アナトミックグリップのデメリット
フォア強打において圧倒的な安定感をもたらすANグリップですが、一方で、使用者が少ない理由にもなっている特有のデメリットも存在します。ここでは代表的なものを3つ紹介します。
バックハンドへの切り替えが少し難しい
1つ目として挙げられるのが、グリップチェンジの自由度が低いこと。
中央部分の膨らみが手のひらにフィットすることで、握りが一定の位置に固定されることを意味し、フォア強打時の安定性という大きなメリットを生みます。
しかし反面、バックハンド時や台上処理の際に握り方を少し変えたり、手首を細かく使って角度調整したりする場面で、その膨らみがその動きを妨げてしまうことがあります。
そのため、STやFLに比べると、細かなグリップ調整にやりづらさを感じるでしょう。
特に現代卓球では、
- バックドライブ
- チキータ
といったバックハンド主体の技術が増えています。
フォア主体の選手には合っても、バック主体で戦う選手には合わないケースもあります。
手の大きさによって合わないことがある
2つ目は、手の大きさによって膨らみの位置が合わないことがある点です。
ANは手の大きさによって合う・合わないがはっきり分かれやすいグリップです。
ANの握り心地の良さは、中央の膨らみが手のひらのくぼみにぴったりはまることで生まれます。
しかし逆に言えば、この膨らみの大きさや位置が自分の手に合っていない場合、フィット感どころか違和感の原因になってしまいます。
たとえば手の小さいジュニア選手や女性の場合、中央の膨らみのぶんだけグリップが太く感じられ、しっかり握り込めません。
一方、手の大きい選手でも、膨らみの位置が手のひらのくぼみとうまく噛み合わず、しっくりこないケースもあります。
ラケットの選択肢が少ない
3つ目のデメリットは、ANを選べるラケットそのものが少ないことです。
先ほど「なぜANグリップは使用者が少ないのか」でも触れたとおり、近年は多くのメーカーでANグリップがラインナップから外されるケースが増えています。
以前はANを選択できた人気シリーズでも、現行モデルはFL・STのみになっていることは珍しくありません。
- ラケットの性能が気に入ったのにANがない
- 気に入っていたモデルがAN廃盤になり、やむなくFLに替えた
という声もよく聞かれます。
グリップ形状そのものは気に入っていても、選択肢の少なさがネックとなり、最終的にFLへ移行するケースもあります。
アナトミックグリップが向いている人・向いていない人
ANグリップは、万人向けというより「合う人には非常に合う」タイプのグリップです。
「なんとなく珍しいから」で選ぶのではなく、自分のプレースタイルや重視したいポイントに照らし合わせ、判断してください。
アナトミックが向いている人
ANグリップが向いているのは、フォアハンド強打を軸に戦う攻撃型の選手です。
- フォアハンドで強打や連打をしたい人
- 手汗が多く、グリップが滑りやすい人
- 強打時の面の安定性を重視したい人
AN最大の強みは、握りが安定することによるフォア強打時の安心感です。
特に手が大きめで、「軽く握ってもラケットがズレない感覚が欲しい」という人には、AN特有のフィット感がハマる可能性があります。
「細かく握りを変えたい」というより、「毎回同じ握りで安定して打ちたい」というタイプの選手向けのグリップと言えるでしょう。
アナトミックが向いていない人
反対に、ANグリップがあまり向いていないのは、次のような人です。
- バックハンド主体で戦う両ハンド型の選手
- 頻繁にグリップチェンジを行う人
ANは、中央部分の膨らみによって握り位置が安定することが強みです。それは同時にラケットを細かく操作する自由度が低くなるという弱みでもあります。
バックドライブやチキータを多用し、繊細な角度調整を行いたい選手にとって、STやFLの方が扱いやすく感じられるでしょう。
「状況によって握り方を細かく変えたい」というタイプの選手にとって、ANの固定感は窮屈に感じられることがあります。
特に現代卓球では、バック主体の両ハンドプレーが主流となっているため、万人向けというよりは、プレースタイルを選ぶグリップと言えます。
アナトミックグリップを選ぶ際のポイント
ANが自分に向いていそうだと感じたら、購入の前に押さえておきたいポイントがあります。
ANならではの注意点を2つ紹介します。
実際に握って確認する
ANグリップを選ぶうえで最も重要なことは、実際に握って確かめることです。
ANは握り心地の個人差が大きいグリップです。
中央の膨らみが手のひらにぴたりとはまれば抜群のフィット感が得られますが、手の大きさや形に合わなければ、かえって違和感の原因になってしまいます。
この相性は、スペック表やネットの情報だけでは判断できません。
特に、
- 膨らみの位置
- 太さ
- フィット感
は実際に握ってみないと分かりづらい部分です。
可能であれば卓球用品を扱うショップで現物を握らせてもらい、
- 自分の手にフィットするか
- 違和感がないか
を必ず確認しましょう。
少しでも「握りづらい」と感じる場合、その違和感がプレー中ずっと残ってしまいます。
無理にアナトミックを選ぶ必要はない
ANは魅力的なグリップですが、前述したように選べるラケットが限られており、「使いたいモデルにANがない」というケースも少なくありません。
ANの選択肢が少なすぎて用具選びそのものが止まってしまうくらいなら、現在主流であるFLやSTのラケットにグリップテープを巻き、握り心地を調整する方法もあります。
テープの巻き方次第で、握りの安定感はある程度調整可能です。
これなら、選択肢の豊富なFL・STの中から好きなラケットを選びつつ、自分に合った握り心地に近づけられるのではないでしょうか。
大切なのはANを使うことではありません。自分にとって、安定して打てる握り心地を見つけることです。
おすすめアナトミックグリップのラケット3選
各メーカーでANが廃盤傾向にある中、ANを使ってみたい方に向けて、現在も購入可能なおすすめラケットを3本紹介します。
Butterfly インナーフォースレイヤーALC
木材5枚合板にアリレートカーボンを搭載したインナーファイバー仕様のラケットです。柔らかい打球感とコントロール性能のバランスに優れ、強打と安定感を両立しやすい中上級者向けの一本。
ボールをつかむような打球感で、フォアドライブ主体の選手とも相性が良く、AN特有の安定感を感じやすいモデルです。
Butterfly アウターフォースALC
中級者向けモデルで、外側配置カーボンらしい反発力と威力を持ちながら、比較的扱いやすさも兼ね備えたラケットです。球離れの良さと安定性が持ち味で、台に近い位置でのプレーに向く一本。
「しっかり振って攻めたい」という攻撃型選手と相性の良いモデルです。
Donic パーソンパワープレイ
スウェーデン製の7枚合板攻撃用ラケットで、7枚合板特有のしっかりした打球感を味わえる一本。
ボールコントロールとスピードのバランスに優れ、木材ラケットならではの打球感を好む選手に向いています。
価格も7,000円前後と比較的手頃で、ANを試してみたい入門者にも選びやすいモデルです。
まとめ|アナトミックグリップは「フォア強打の安定」を求める人の選択肢
ANは、中央の膨らみが手のひらにフィットすることで、フォア強打時の安定感や、軽い握りでもズレにくいフィット感を生み出すグリップ形状です。
近年は、両ハンドプレーの主流化やメーカーのラインナップ縮小によって少数派になっています。
しかし、決して性能が劣っていたからではありません。
フォア強打の安定を求める攻撃型選手にとっては、今でも十分有力な選択肢です。
ただし、握り心地の個人差が大きく、選べるラケットも限られてしまうのが現状です。購入前には、実際に握って自分の手に合うかどうか、必ず確認してください。
グリップ選びはプレーの安定に直結します。
ANも含めて、自分にとって最適な一本を見つけてください。
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